「この町にサキュバスが出た?」

 少年は幼馴染の少女から噂話を聞き驚いた。
 実在するらしいが、サキュバスを実際に目撃した冒険者は知り合いにもいない。

「うん。だから、暫くひとりで出歩かないで欲しいの」
「……判った。なるべく、一緒にいようか」

 男を誘惑し大人の関係を作る魔物。
 実在するらしいが……それすら正直ほんとうなのか怪しいというのに。
 この町に現れたという噂話で不安になっている幼馴染の事を、少年は可愛らしいと思った。

「サキュバスってどんな姿をしてるんだろうな」
「やめてよ! 本当に不安なんだよ」

 小さな頃からずっと一緒に育ってきて、お互いにハッキリ口にだした事はなかったが。
 きっと一生二人でいるのだろう。
 誰よりもお互いが特別だったから。

 魔物の蔓延るこの世界で珍しくはなかったが、共に親無しだった。
 今は二人で一部屋を借り、できる仕事をして生きている。

 まだ年齢的に冒険者資格を取れない二人は、ギルド内の清掃を任される事が多かった。
 午前中は少女がギルドを綺麗にし、そこで噂話を耳にしたらしい。

 その時間帯の少年は町の壊れた外壁修理という、肉体労働をしていた。
 働きながら体を鍛えたかった少年にとって、外壁修理の仕事は都合がよかった。
 大切なものを守るには強さがいるのだ。

 いつもある仕事ではないが、あと数日は続くだろう。
 それが終われば、また幼馴染と一緒にギルドの清掃の予定だ。

 昼ごはんを食べ終わると、再びお互いの職場へもどる。

 別れ際に、ぎゅっと手を握られ「今日は早く帰ってきて」といわれて頬が熱くなったのを少年は思い出す。
 大切だった。守りたかった。もっと強さが必要だった。
 子供だから、大人だから、そんな言葉はいらない。結果が欲しかった。

「午後もがんばろう」

 少年は覚悟を新たにする。
 いつも以上に気合を入れて働き、いつも以上にヘトヘトになる。
 併設されているシャワー室で汚れと汗を落とすと、まっすぐ帰ろうとした。

「なぁ、サキュバスが出たらしいな」

 同僚の大人達もサキュバスの噂をしているのが聞こえてきた。

「川の辺りで見たってヤツがいるらしいぜ。帰りに寄ってみないか?」

 この仕事は日当で、そのお金の殆どを女を買うのに使っている大人が多い職場なのは前から知っていた。
 だから別に不思議には思わない。少年は挨拶をして、いつも通り帰ろうとする。

「なぁ、少年。お前も見にいかないか? 他の女に手を出すわけじゃないから、後ろめたくもないだろう」

 少年が幼馴染の少女と同棲している事はみんな知っていたから、基本的にこの手の話題を振られることはない。
 ただサキュバスがどんな姿をしているのか、少年も気になってはいた。

「川の方に寄ったからって、少しだけ遠回りになるだけだ。なぁ、いいだろ?」

 ほんの少しの遠回り。
 そして他の同僚は全員が行くらしい。
 サキュバスはいないだろうけれど。

「……みんな行くなら、行こうかな」

 少年が折れるのを聞いて、男達も盛上がる。

「いやー、折角だから本当にいて欲しいな。サキュバス」
「どんなエロい姿なのか、少年の目に刻みたいわー」
「女と同棲しながら、もっと稼げるようになるまでは手を出さないなんて、俺には無理よ」
「そうだそうだ。サキュバスを見せて、少年の野生に火をつけたいね」

 無責任な大人達の会話を聞きながら、ふと少年は思う。
 サキュバスに遭遇したとして、無事に帰った人間がほぼ皆無なら、その場合も目撃者はいなくなるのでは?
 もしそうなら、実在を疑った時点で、釣り針に掛かったようなものだ。

 不安と、少しの期待を胸に、少年は話題の中心にされながら歩く。
 男たちは馬鹿話をしながらゾロゾロと目的地へと向かうのだった。

 ………
 ……
 …

 早く帰って、と言ったのに。
 少年はなかなか帰ってこなかった。
 少女はベッドに腰掛けて、不満げに足をぶらぶらさせている。

「早くって言ったのに」

 サキュバスだなんて絶対に会って欲しくなかった。
 実在すら怪しいことは分かっている。
 それでも可能性があるなら、関わって欲しくはなかった。

 少女にとって、2人の世界を壊す可能性は全てが不満だった。

「女の人の裸に興味があるなら、わたしがいつだって……」

 口に出すと頬が熱くなった。

 まだ早いだろうかとも思う。
 でも、他の女に取られるくらいなら、今夜からでも良かった。
 前に進む切欠となるなら、サキュバスの噂のことも許せる気がした。

「うん、そうしよう」

 疲れて帰ってくるだろう。
 だから、少しだけ。軽い感じで。
 一緒に住みながら、そういえばお互いの裸を直視したこともなかった。
 今夜から全部ゆるそう。

 見ることも触ることも許すし、見ることも触ることも許してもらおう。

 言葉にして気持ちを共有しよう。
 少年が帰ってきてからの事を想像し、少女がにやける。

 すると、部屋のドアがノックされた。

 幼馴染の少年なら、合鍵を持っている。

「誰?」

 再びドアがノックされた。
 少女は訝しがりながらも、ドアを開ける。

 そこにはあなたがいた。
 インキュバスである、あなたが。

「え? ……あっ」

 淫魔の体臭を吸い込み、少女はくらりと眩暈を覚えた。
 匂いから想像した通り可愛らしい少女を満足げに見下ろしながら、長身のあなたが部屋へ入っていく。

 ドアが閉まった。

 ………
 ……
 …

「だ、だえ?」

 クラクラと意識に霞が掛かり、呂律が回らなくなった少女が後ずさる。
 強引に部屋に入ってきたあなたは、自己紹介をしながらスッと近づいた。
 そして床に膝をつき、目線を合わせる。

 空気感を読み違え、何か説明があるのかもと少女は言葉を待ってしまった。

 ほんの一瞬の隙を突いて、少女の唇にあなたが重なる。
 初めてのキスの味に、小さな女の子の目が見開いた。

「んっ、んんーーーー!」

 拒もうとする唇を割り、舌が触れ合う。

 インキュバスの唾液が、少女の口内に溶け込んでいく。

 世界が塗り替えられるように、全身が敏感に反応した。
 少女は肌と下着が擦れるだけで、事前に想像できるわけもない刺激を味わう。

 頬に触れる空気の温度差ですら、全身が甘く痺れていく。

 未知の現象を味わう少女の精神は対応に間に合わない。
 喉が鳴る。

 あなたの体液を、喉を鳴らして飲んでしまう。

 1秒の前と後で世界が変わり続けた。
 喉が、頬が、脳が、全身が研ぎ澄まされる。

 喉が鳴る。
 舌が絡まる。
 少女の舌が、あなたの口の中へ自覚なく差し出される。

 喉が鳴る。
 焦点の合わない女の子の瞳が細まって、ゆっくりと。

 ゆっくりとあなたに導かれるまま、ベッドへ誘導され、押し倒されていく。

 後頭部がシーツに沈むと、離れていくあなたの唇へ、名残惜しさの滲む表情が向けられていた。

 想像したこともない大きな刺激に流され、自分が誰にどんな表情を向けているのか自覚もできず。
 あなたの手でシャツの上から胸を掴まれる。

 少女に自慰の経験はなかった。
 ましてや他人に触られたことなどない。

 刺激に慣れていない膨らみ掛けの胸の柔らかさを、あなたの掌がじっくりと味わう。

 「あ……」

 細い、声。
 少女にとって、自分でも初めて耳にした男へ向ける甘い吐息。

 向けられたのは、あの少年ではなくあなた。

 衝動に流されるまま物欲しげな視線を初めて向けた相手は、あなた。

 覚えのない強い衝動に耐えられず、少女は高ぶりに身を任せる。
 性衝動の望むまま、あなたの掌におっぱいを押し付ける為だけに全身をうねらせた。
 既に硬く膨らんでいる胸の先端がシャツ越しに伝わってくる。

 効率や理性的な働きはそこにはもうなかった。

 触れられるたび、その部分を強く押し付け全身で反応する、柔らかなイキモノ。

 あなたはもう明らかに、目の前の少女から体を求められていた。
 男女の衣服がベッド横へ雑に散ばっていく。

 ベッドの上で生まれたままの姿の二人のシルエットが完全に重なった。

 ………
 ……
 …

 夢魔の王として、あなたは自分の強みをよく知っている。
 汗の匂いの届く範囲なら耐性を無視して異性を心酔させる事ができるだろう。
 唾液を体内に吸収させたなら、何よりも繋がりを求める性奴隷をつくれるだろう。
 王の種である精液が一滴でも皮膚に染み込んだなら、あなたを愛する人形となるだろう。

 何の避妊もなく、パンパンに膨らんだあなたの男性器が、少女の膣内に、今、根っこまで収まっている。

 挿入途中から何度も小さな女性器が収縮と弛緩を繰り返していた。
 生娘の破瓜の痛みが全て快のみに変換されて、小さな肉体を痙攣させ続けた。

 少女の肉体が動く理由を手足の先まで、性感の味で染めていく。
 一夜にして、あなたに染められていく。

 知ってしまった欲求を満たす為にしか動けないよう本能が塗り替えられていく。
 理屈を越えたところで、少女の指針が不動になる。

 あなたの背には細い腕と足が回されて、男女の肌はこれ以上なく密着していた。
 あなたも優しく抱き返し、その全身の肌触りを味わう。

 あなたのリズムに合わせ、少女が淫らに貪った。
 直前までひとりの男の子を一途に想い続けていた女の子が、あなたと抱き合う時間に夢中だった。

 いま他の男のことは、一切頭に浮かんでいない。
 あなたを見て、あなただけを感じ、これ以上ない多幸感に溺れている。

 どくんっ……! どくんっ……! どくんっ……!

 あなたの子種が勢い良く噴出し、狭い女性器の中に満ちた。
 膣口から溢れそうになるが、肉が蠕動し奥へ奥へと吸っていく。

 あなたの精液が少女の下腹部に一滴残らず飲み干された。

 事実、異様な速度で肉壁に浸透し、血液にのって少女の全身をあっという間に巡る。
 男女の性だけではなく、脳や神経も深く犯していく。

 ――――夢魔の王として、あなたは自分の強みをよく知っている。
 汗の匂いの届く範囲なら耐性を無視して異性を心酔させる事ができるだろう。
 唾液を体内に吸収させたなら、何よりも繋がりを求める性奴隷をつくれるだろう。
 王の種である精液が一滴でも皮膚に染み込んだなら、あなたを愛する人形となるだろう。
 あなたの子種を性器から直接吸収したのなら、属性を失い、あなただけのサキュバスとして物理的に生まれ変わるだろう――――

 程無く。
 あなたの腕の中で全裸の少女は生まれ変わっていた。

 腰には尻尾が生えている。
 黒く艶があり先端がハート型になっていて、今は脱力しベッド横へと垂れている。

 そしてその背には蝙蝠を思わせる淫魔の翼が、小さく生えていた。

 少女は定期的にあなたの子種を膣で摂取しないと生きていけない、専属サキュバスへと完全に変化を遂げていた。

 「……もっと……もっとください……」

 肉体の変化を見守っていたあなたに、少女は懇願した。

 小さな女の子がさっき出会ったばかりのあなたに、心からの愛を囁く。
 もっと裸を見て欲しくて、もっと肌に触れて欲しくて、性欲を剥き出しにした表情で瞳を濡らす。

 寝そべるあなたの腰に跨ると、自分自身の手でパンパンに膨らんだあなたの性欲の塊を誘導し、下腹部へと受け入れた。

 少女は乱れ、全身に浮かんだ玉のような汗があなたに降り注ぐ。 
 ついさっきまで処女だった娘があなたの肉体に没頭していた。

 淫魔に生まれ変わった少女は、小さなお尻をいやらしく振るのを止められない。
 黒かった尻尾が濃いピンクへと変わり、くねくねと少女の官能を繊細に描写している。

 積極的にあなたを誘惑しながら、新しい常識に馴染んでいく。
 あなたの視線が胸の先端に向かっているのに気が付くと、少女は興奮で脳がクラクラし全身で抱きついた。

 あなたの腹部に生のおっぱいをぐいぐいと押し付け恍惚とする。
 あなたにギュッと抱き締められると、全身がびくんびくんと痙攣し、そのまま脱力した。
 あなたという存在を土台に、少女は満たされ寝息を立て始める。

 あなたは性器で繋がったまま抱き上げるとマントで隠すようにそのまま連れ帰り、目覚めた少女と拠点で続きに励むのだった。
 
 ………
 ……
 …

「よぉ、少年」
「少年じゃないですよ」
「まだ少年さあ」

 今年成人したばかりの男が昔なじみのおっさんと挨拶を交わし、冒険者ギルドの奥へ進む。
 
 8年前に行方不明になった少女の手掛かりがみつかったと聞き詳細を知りにきたのだ。
 当時――少年が家に帰ると、同棲していた少女の姿はなかった。

 調査の結果。
 床には脱ぎ捨てられた下着を含む少女の衣類、ベッドには男女の性交の痕跡があった。
 しかし抵抗した様子はなかった。

 少年には信じられない結論だった。
 誰か男が部屋に入り込み、大切な女の子がそれを受け入れて、ここで和姦に及んだのだという。
 そして二人で姿を消したのだ。

 浮気をされるだなんて思いもしなかった。
 少年はただただショックだった。
 しかし。

 本当にそうだろうか?
 直前のサキュバスの目撃情報から、ひとつの仮説を立てた彼は多くの文献を漁り可能性をひとつ見出していた。

 男を誘惑するサキュバスが存在するのなら、女を誘惑する似た存在もいるのではないだろうか。
 更にその存在は、サキュバス以上に目撃者をひとりも許さないのでは?
 
 ギルドの奥で、昔なじみのギルド長から男は話をきく。

 サキュバスの群れが生息する城があるらしい。
 その挙動から、恐らく城にはサキュバス達の主もいるだろうと云う話だった。

 サキュバスを。
 女を操る上位存在。

 これまで何の手掛かりもなかった。
 男はギルド長にお礼を伝えると、城へ向かうことを伝えた。
 真面目に鍛え続け、実質、この町のギルドで最強といえるだけの力をつけた男の真剣な眼差し。

 男の気持ちを知っているギルド長は止める言葉を持たず、必ず帰ってこいと背中を押した。

 ギルド長が彼を見たのは、これが最後となる。

 ………
 ……
 …

 あなたは好みの女を見かけては自分のモノにしてきた。
 城にはそんな女達が2通り存在する。

 あなたは狙った娘を基本的にサキュバスとして生まれ変わらせる。
 だが相手をしたときに処女ではないと、従属させることはできても種族は変わらないのだ。

 サキュバスと、それ以外。
 この城に存在する女の種類だった。

 だから、あなたは経験の有無を匂いから辿るのを得意としている。
 それは単純に鼻が利くという事でもあり、侵入者にも容易に気が付けた。

 心も体もあなたに支配された元冥王が、来客を無傷で捕える。

 捕えたその侵入者の男は、どうやら女を捜しに来たようだった。
 あなたの足元にも及ばないが、元冥王が珍しく”人間にしては強すぎる”と評価した男の悲願。
 珍しく気になり、あなたは直に話を聞いた。

 男の体験した事件のあらまし。
 それはあなたにとっても確かに覚えのある光景。

 あなたが呼ぶと、サキュバスのひとりが寄ってきた。
 淫魔となった時点で老化の止まった、若い姿のサキュバスが。

 初めてサキュバスを見たが、男は面影からすぐに誰か分かった。
 サキュバスの少女もすぐに誰か分かったようだった。

 玉座に腰掛けているあなたは小さな淫魔を膝に乗せ、この男の元に帰りたいか問う。

 少女は幼馴染の男の目の前で、あなたからは絶対に離れたくないと甘えてみせた。
 あなたは唇を重ね落ち着かせる。

 今度は「望むならこの城で幼馴染の少女と夜を共にしても良い」と、男に許可をだす。
 サキュバスの少女も、あなたが望むならと好奇の目を幼馴染の男の肉体に向け始めた。

 その代わり生涯この城で従えと、あなたは続ける。

 男は――――絶対的強者であるあなたと、ようやく再会できた少女を前に、膝を折った。

 夜。
 長年想い続けてきた女の子が、他の男に仕込まれたテクニックで攻め立てる。
 サキュバスに関わって欲しくないと言っていた少女自身によって、幼馴染の男がサキュバスの毒牙に掛かっていく。
 女性経験が一度もなかった男は、一夜にして枯れるほど絞られた。

 この日から彼は城務めとなった。

 幼馴染の少女は数日ごとに男と寝ては、その翌日は必ずあなたとも寝る。
 あなたの腕の中で、幼馴染の男がどんな様子だったのか細かく報告する。

 男もその事を教えられて知っていた。
 どれだけ熱を持って抱いても、幼馴染の少女が帰るのは必ずあなたのところなのだ。

 それでももう、この城から逃げられないのは分かっている。
 愛する女の住む城を守るため、冒険者の命を次々に奪いながら、戻れない日々を想う。

 サキュバスの体液を頻繁に浴び続けることで、彼もまた不老不死に近い存在に変わっていった。

 S級冒険者を何人も屠っているうちに彼もまた伝説となる。
 何者も通さないサキュバス城の門番、リビングフォートレス。

 冒険者ギルドで討伐依頼に書かれている、彼の魔物としての名だった。
 その名が出始めて、もう715年になる。

作品キャプション

幼馴染の少年と少女が同棲している状況。近場にサキュバスが現れたという噂が流れ、仕事仲間と一緒に少年が目撃情報のある川辺へ。その時間、少女が待つ家にはインキュバスが訪れて……。インキュバスを読者である「あなた」と設定した小説。

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