永遠亭。幻想郷の医療を司るこの場所には、外から流れ着いた来訪者が、結界の管理者の手によって運び込まれる事が時折ある。

「永琳。この子、あちこちがかなり酷い事になっているけれど……治るかしら?」
「……そう、ね。このくらいなら、まだ救命は可能だし。蓬莱人にはならなくて済むのではないかしら。ただ緊急を要するのは確かね。優曇華も呼んで、すぐ処置に入りましょう」

 幻想郷に住まう八百万の一柱である厄神の鍵山雛も、その昔に信仰を失って結界の向こう側へと辿り着いた際に、八雲紫によって永遠亭へと担ぎ込まれた者の一人だった。


 遥か昔。未だ結界自体が存在しなかった時代。現代では東京都と呼ばれている地域に組み込まれている、秩父山脈の南西の麓にかつて存在していたとある農村には、
「男は皆、厄祓いのために、定期的に贄の女性の膣に精を出さねばならない」
という奇妙な仕来りが存在した。

 雛は、かつてその村の郷神として降臨していた。

 彼女は当時、未だ若い神であったから、大神の指示によって、その村に見習いの厄神として配されていた。

 その村での、雛の郷神としての役目は、村人の厄を受ける事だった。

「雛様は、その美しいお体を、村人の皆の幸福のために捧げられると伺っておりまする」

 神々のお告げを得られるという、神官を兼ねた村長にそのように言い聞かされた彼女は、赴任したその日のうちに、村長の手によって「味見」と称して無理矢理処女を散らされる事となる。

 以降、雛は村長から妾に近い関係を強要され、彼から村の男達に貸し出されるという形で、彼等の慰み者として扱われていた。


 最初のうちは、村人は皆そんな慣習である、と了解した上で、雛を丁重に扱いっていた。つまり彼女は「身体を張って厄を払って貰っている」という建前で、その村における信仰を得ていたのである。

 信仰を失えば、神は顕界できなくなる。それは遥か昔から変わる事のない真理だった。

 当時、神としての自負と使命感に溢れていた雛は、こんな筈ではなかった、と思いながらも、そういった穢れた役目を懸命に全うしようとしていた。

 だが、時代が降るにつれて、そうした元々の意味などは容易に薄れてゆくものだ。

 村人たちが子孫、特に親から子、子から孫へと世代交代を行ってゆくにつれて、彼等にとって雛の存在は当たり前のものになっていく。

 彼女は次第に、村人たちの都合の良い性処理の道具として扱われるようになっていった。


 雛の存在は、村の男達の間では公然の秘密だった。その行為自体には厄除という機能は未だ残っている。だから彼女も、その「儀式」の中で彼等の精を受ける事で、神として必要とされていると認識させられ、顕界を保つことが出来ていた。

 だが、その秘密の儀式における彼女の立場は、雛が赴任してより半世紀も経過した頃には、最早とても崇敬されているとは言い難いものに変化してしまっていた。

 雛が顕界するにあたってその村に用意された大きな社。その奥まった女人禁制の場所に、儀式で使われる離宮は存在する。

 ここを所管するのは、代々村長と神官長の役目を帯びる、茅森かやもり家の嫡男だ。その出自ルーツは、十四世紀初頭まで遡ることが出来る。

 当時甲斐一帯だけでなく武蔵境にも強い影響力を及ぼしていた武田氏によって、その土地を司る神職として封されたのが、武田家臣であり、八幡信仰に篤い茅森家の一族であった。

 その八代目である茅森修一しゅういちは、丁重に扱われていた筈の、贄となる厄神の扱いを性奴隷に等しいところまで貶めた張本人だった。

 修一は幼い頃に父母を亡くしている。それは彼の祖父母が従兄妹婚であった事に由来する、近親配合インブリードの弊害によるものであった。だが医学がそこまで発達しているわけでもない、因習が多く残るその村では、その出来事は茅森家に厄が降っている、と捉えられ、畏れられていた。

 そんな事を親世代の者達に言われながら育った修一は、次第に両親が病死したのは厄神である雛の力不足の所為である、と思い込むようになっていった。

 茅森家の跡目を継いで、八代目当主となった修一が、ある時
「父母が早く病死したのは、あなたの所為ではないのか」
雛に彼が常日頃から疑問に思っていたことを問い質したことがあった。それに、彼女は明確な答えを示す事が出来なかった。力不足と言われたならば、それはその通りだろう。彼女はそう考えていたから、その場で安直に、自身の非力を詫び、謝してしまったのである。

 しかしそれは、修一が考えていた「この村に厄神なんて汚らわしいものは不要」という、過激な思想が正しいと裏書きしてしまうことに繋がる。

 雛のその答えを聞いて怒り狂った修一は、彼女を殴り飛ばしてしまうと、
「赴任中はくれぐれも当地の人間を殺めないように」
と大神より申し渡されていたことから、彼の暴力に抵抗する事が一切出来なかった彼女を力づくで犯し尽くした。彼女の立場が形なりにも崇拝されていた神から、性奴隷同等の慰み者へと堕とされてしまったのは、まさにその時からであった。


 村長である修一の差配によって、雛は「慰月いづき」呼ばれていた、厄払いの儀の役目を免除されていた期間にも、村人の性処理に従事しなければならなくなった。

 慰月は、雛の排卵日付近の前後七日間を、穢れを禊ぐ期間として定めたもの。それは厄神として人身御供の役目を帯びている雛を、村の男達が女神として尊重する事ができる、唯一の無二の制度だった。

 その仕来りがあったからこそ、彼女は今まで妊娠の心配をせずに村の男達の穢れをその身に受け続ける事が出来ていた。

 慰月の廃止に際して、雛は修一に懇願した。それが無くなってしまうと、彼女の身体は子を身籠ってしまうことになり、それが何度も続いていけば、そのうち穢れを祓う事が出来ない身体になってしまうだろうと。

 雛はどうかそれだけは、と何度も撤回を嘆願した。だが、彼女を父母を殺した張本人だと信じて疑わなくなった彼がそれを聞き入れる事は一切無かった。

 果たして慰月という身体を休める事が出来る期間を取り上げられてしまった雛は、毎晩のように村の男達の慰み者にされるようになっていった。


 この日も、雛は離宮で村の男達の性処理に従事させられていた。本来ならば慰月の五日目。彼女の身体は今宵、膣内で射精されたならば、ほぼ間違いなく妊娠してしまうであろう、危険日の最中にあった。

 そんな状況にも拘らず、雛の許へと訪れていたのは、二桁を下らない人数の、若く性欲に満ち溢れた者達だった。

 元々雛が村の男達の相手をする「厄払いの儀」は、厄が溜まりやすいとされる年長者を優先するように制度設計がなされていた。

 その真意には、そういった年功序列を設けて若い男との接触回数を極力減らすことで、一晩に何度も膣内に精を受けて身体を酷使する事となる雛の負担を減らすという側面的な意味合いがあった。それは、彼女に対して敬意を払うと同時に、彼女の安全に気を配るためのものだった。

 然るに、修一はその制度を廃し、慰月の定義すらを変えてしまった。

 本来雛が身体を休めることが出来た期間は、「若い男達が社への奉納金の額によって、年功者に遠慮せずとも好きに雛を犯す事ができる期間」へと姿を変えてしまっていた。

「おい、後がつっかえてるんだ。早くしろ」
「こっちも手が止まっているぞ。はやく扱けよ」
「う、うぅ、っ……」

 既に精でどろどろに汚されてしまっている雛は、両手に肉茎を握らされ、手淫で精を絞る事を強要されていた。その間にも、やはり最早誰の子種とも分からぬ白濁を溢れさせている秘唇には、男根が挿し込まれていた。

「厄神さま。ほら、膣内なか射精すぞ……しっかり、受け止めろ……っ」
「やだ、やめてぇ! なか、だめぇ! もう、だしちゃ、だめぇ! また、あかちゃん、できちゃうから、だめぇ! ん、ぅぅぅ、っ……」

 雛の懇願も空しく、彼女を下から突き上げて犯していた男は、無遠慮に彼女の危険日の膣内へと精を迸らせてゆく。

 雛が膣内射精を受けたのは、今宵はこれが四回目。子を身籠ってしまう度に嫌という程経験した、精液が子宮内に浸潤してたぷたぷと溜まってゆく感覚を得た彼女の脳裏には、否が応でも妊娠の二文字が過ってしまう。

 その男の射精に合わせて、雛は不本意ながらも絶頂に至ってしまい、身体をびくびくと震わせていた。彼女はそれには未だ慣れることはなかったが。何百、何千とその身に精を受けていくうちに、段々と彼女の中では諦観の方が強くなっていた。

 雛は既にこの年に入ってから、誰の子とも分からぬ子を五回も身籠っていた。しかしながら、その全てが胎内での死産だった。

 彼女が身籠った子が死産を繰り返している根本原因は、当然雛の身体への安全配慮を村の男達が無視し続けているというところに帰結する。

 例え妊娠していたとしても、役目から解放されることが一切なかった雛の女体への害は、最早無視できない程度には蓄積していた。

 雛の身体に溜まりゆくその穢れによる損傷は、いつしか彼女の精神や神としての本質すらも蝕むようになっていたが、彼女を尊重し慮る心をいつしか忘れてしまった村の男達は、それに一向に気付けずにいた。


 雛の下腹部、ちょうど子を宿す臓器が存在するあたりには、いつしか青紫色の紋様が発現するようになっていた。それは、彼女が諦観やどす黒い感情を抱く度に呼応して色濃くなるようだ。

 それは「淫蕩の呪い」と呼ばれる、下手をすれば国の一つや二つを簡単に滅ぼしかねない程の禍々しい代物だった。現代の幻想郷に於いてでは、それ自体は発現する仕組み(メカニズム)まで詳細に解明されていて、先手を打てばいくらでも対処のし様がある現象である。

 厄を溜め込みすぎた厄神が自家中毒を起こした結果、厄病神と化してしまう。そんな本末転倒を体現したような現象は、その昔は全くと言っていい程認知されていなかった。

 だから、それがよしんば発生したとしても天変地異に類するものと理解され、その事について詳しく調べること自体が禁忌とされる程の、非常に強烈なものであった。

 これが発現してしまった厄神の本質は、限りなく祟り神の類に近付いてゆく。無論穢れによって精神をかなり蝕まれてしまっていた雛も例外ではなく、彼女は神でありながら、
「こんな慣習、こんな村、いつか、私の手で終わらせてやる……」
顕界している村の破滅を願うようになっていた。そうすることで彼女は、行為の最中どんな犯され方をしようとも、自分を押し殺していくらでも淫らになることが出来た。

 それこそがまさにその現象の特異な部分だった。厄神自らが淫魔の如く男性を誑かし、自身以外の女と交われなくしてしまう。それがこの淫蕩の呪いの恐ろしいところだ。

 厄神以外の女性と交われなくなるということは、一度その呪いを受けた男からは、次世代の子供たちは生まれなくなるのと同義だ。そういった男性が数百、数千といった数になるだけで、あっという間に国が傾いてしまうであろうと言う事は、想像に難くないだろう。


 雛自身が、いつしか毎晩の務めが苦痛ではなくなっていると気付き始めたのは、村で細やかな異変が起こり始めた丁度その頃だった。

「村の若い者達を中心に、子宝に恵まれず、跡継ぎに困っている家が昨今多いらしい」

 そんな噂が、厄神である雛の耳にも届くようになって来ていた。

 実は雛は、そうした噂が広まり始める前から、
「夫の一物がたなくて困っている」
という、もう少し具体的かつ下世話な相談を、結婚をしたばかりだという若い女性達から多く受けていて、そういった事象が発生しているということを把握していた。

 女神である雛は、村の女性達からは慕われている存在だった。故に、そういった家庭内のうっかり他人に話せないような、機敏センシティブな話題の相談相手になる事も少なくなかった。

 相談を持ち掛けてきた者達の話を聞いて、雛はそれらの中からある共通点を見出していた。それは
「そういった事情を持つ家の夫は、一度でも儀式に参加して雛を犯し、その膣内で精を放った経験がある」
というもの。

 それで雛は、自分の身体が男性不妊を引き起こしているという現実を把握するに至っていた。

 厄神である雛は、基礎知識として先代の大神から淫蕩の呪いついて聞き及んでいて、それが発生してしまうと、どのような事が起こるか、ということまで知り得ていた。

 だから、自身の身体がまさに現在進行形でこの村に害をなす存在となりつつあるという事実を、存外冷静に受け止めていた。

 雛は「この村が滅びてしまおうとも一向に構わないと」いう、ある意味村長である修一とは真逆の過激思想を抱く、急進的な左派だ。そして彼女はそれを一人で成し遂げてしまえる神通力もこの時点で有していた。

 雛はそれに気付いてしまった時点で、いよいよ自身の手でこの村を滅ぼしてやろうと決意していた。それ以降彼女は、老若を問わず、昼夜も問わず、自我を殺して、淫蕩の呪いを振り撒くべく村の男達と交尾を繰り返すという、爛れた生活を送るようになっていった。


 そんな折、精通を迎えたという少年が雛のところに連れられて来た。彼女としては村の荒廃を根差すにはこういった性の目覚めを迎えたばかりの男子を狙って童貞を食い散らして断種に邁進することが効率的であると知り得ていた。

 だから、悪友に肝試しで雛の許へと連れて来られたらしい、村で一番の商家の嫡男である少年、佐波さば健治けんじに対しても、彼女はいつも通りの応対で、先着順で童貞卒業を手引きしてやっていた。

 雛にとって、健治は所詮滅ぼすべき対象の一人でしかなかった。だが彼は、周囲の大人達や同い年の者達とは違い、彼女に対してただ劣情だけを抱いている訳ではなかった。

 村の体制が現村長である修一によるものに代わる前に、忙しい両親の依頼により結構な頻度で雛に面倒を見て貰っていた経験がある健治は、幼い頃から見目麗しい郷の守り神様にはっきりと憧れている、この村に於いては稀有であると言うべき人物だった。

 兄弟がいない健治にとって、雛は姉のような存在だった。そんな彼女で童貞を捨てられる。それを先だって儀式に参加して童貞を彼女で捨てていた悪友が鼻高に語っていたことで、彼は今まで興味を示さなかったそれに参加しようという気を起こしたようだった。

 然るに彼は、その儀式に参加してしまったばっかりに、この村に蔓延る病巣のような深淵の闇を目の当たりにしてしまう事となる。

 健治が儀式に顔を出すようになって真っ先に抱いた違和感。それは「誰もかれも雛に愛情を持って接していないようだ」という、村の闇の本質に近いものだった。しかしながら、それについて深く考えたり口出ししたりすることは禁忌タブーであるようだ。

 或いは雛に憧れているのは自分だけではないか、と思う程には、周りの者達は彼女を性処理の道具としてしか見ていない様子。それは一体どうしてなのか、という素朴な疑問を口にしただけでも村八分にされてしまいそうな雰囲気に、健治は随分と辟易していた。

 だが、健治とて健全な年頃の男子だ。雛の処遇についてそんな疑問を抱きつつも、彼女と交わる甘美な感覚を忘れることが出来なかった彼は、その後も何度か集団での儀式に流されて参加してしまっていた。


 集落の中で雛によって断種を受けた人数が五百人を数える程となり、いよいよ出産率低下による後継者不足の問題が深刻化し始めていた。そんなとある日。彼女はとある不思議な来客を迎えていた。

 村長の触れにより、村の男は単独で雛と接触する事が禁じられていた。それは彼女を相互監視下に置く事で、彼女に変な気を起こさせないようにする、という巧妙な施策だった。

 その事は雛も重々承知していた。そんな些事では最早止められない程の厄を村中に振り撒き続けている彼女は、能ある鷹のように表向きは修一が定めたそれに従っていた。

 だから彼女は先入観から来客者は女性であると勘ぐっていた。だが雛は、その人物の仕草や所作が女性のそれではないことから、違和感を覚えていた。

「もしかして、きみは……男の子、なのかな?」

 雛が鋭く指摘する。その明らかに女性ものの振袖を着込んだ人物は、それにびく、と身体を震わせた。

「……見なかったことにしてあげるから、すぐ立ち去りなさい。性欲が我慢できないなら、せめて二人以上でいらっしゃいな。掟を破っても何もいいことはないわ」

 雛は嘆息しながら諫言を告げる。すると観念したのか、その人物は鬘を(かつら)外し、仮装を解いて正体を現してみせる。

 その人物は健治だった。親が商家で様々な商材を扱っているからこそ出来る、女装という大胆な方法で、彼は雛との接触を試みていたのだった。

「きみは……最近儀式ヽヽでよく見る子だね。確か、健治くん。最近の子にしては、優しく、気持ちよくしてくれるから、よく覚えてるよ。でも、一人じゃダメだよ。これが見つかったら、きみの一家はただじゃ済まなくなる。それを知らない訳でもないでしょう?」

 雛は再び溜息を吐きながら、見上げた努力は評価するとしつつも、時間を改めるように告げる。だが、健治ものっ退きならない様子で
「仰る通り、掟破り、ですよね。わかっているんです。でも、どうしても雛様に、僕は聞かなきゃいけないことがあって……だから、こうやって変装してここまで来ました。別に、雛様と二人きりでまぐわいたいとか、そういうことが目的ではなかったんです。それは本当です」
必死に言葉を紡ぐ。そんな彼の、真剣な眼差しを受けた彼女は、一旦は彼を信用する事にした。

 だが間の悪い事に、
「雛様。御来客の方はまだいらっしゃるのでしょうか? 面会の時間を超過していますよ」
本殿の外から声が掛かる。その主は村長の息が掛かった神官だ。彼は雛の予定を管理するという体で彼女の監視役を担っている人物だった。

「健治くん。すぐさっきの鬘を被り直して。私がいいって言うまで、喋っちゃだめだよ。いいね?」

 雛が咄嗟に指示を出す。健治はそれに無言で頷くと、先程脱ぎ払っていた鬘をいそいそと被り直す。

「ごめんなさいね、ちょっとお客さんの女の子がかなり体調悪いみたいで。私の厠へと連れていってあげようと思っていて……」

 雛は再び女装をした健治を抱きかかえながら、神官の目の前に姿を現して嘯いた。

「……成程。わかりました。なるだけ、手短にお願いしますね。もし必要でしたら、医官も呼びますから、その時はすぐ声を掛けてください」

 その様子を目の当たりにした神官はどうやらそれを事実であるとうまく錯覚したようだ。彼は一つ息を吐くと、その場を立ち去っていった。

 雛は健治を抱えたそのままで、足早に厠へと至っていた。ここは彼女専用の施設で、滅多な事がない限り、誰も近付こうとはしない場所だった。

「さて、うまく人払いもできた。それじゃ健治くんの話とやらを聞こうか。ただ、くだらない話なら、すぐさっきの神官に引き渡すから、そのつもりで」

 雛は予め釘を刺しておきつつ、地面に立たせた彼の目の前にしゃがみ込んで、目線を合わせながら彼に先程の続きを促す。彼は緊張の面持ちのまま頷くと、
「えっと……。うまく、言葉にできないかもなんですが。僕は、ずっと疑問に思っていたんです。みんな、雛様のこと、ただ性欲を発散させるための道具としてしか見ていないんじゃないのかな、って。僕は、そうじゃないんです。いや、あんなところに混ざっておいて、言い訳みたいですけど……。本当はこんなのおかしい、って思ってるんです。でも、そんな事を言い出せる雰囲気じゃなくって……。だから僕、本当にどうしたらいいか分からなくなってしまって……」
拙いなりにも、彼が常日頃から感じているこの村の異常さと何も出来ない自分の非力さを、言葉にして彼女にぶつけてみる。その率直な言葉に、雛は思わず胸を突かれていた。

「僕は、昔両親が行商で忙しい折に、雛様に何度も面倒を見て貰ったことがあって。昔の、優しかった貴女を知っている。だから僕は、貴女がどうしてこんな慰み者みたいなことをしなきゃいけないのかの理由が知りたい」

 健治がかつて彼女の世話になっていた事があることを引き合いに出して続ける。それで雛は、
「そうか、きみは佐波屋の……。ごめんね。そんなことも忘れてしまっていたなんて……。私は本当に神様失格だね……」
彼がかつて自分がよく面倒を見てあげていた、可愛い弟のように感じていた男児だったという事を、朧気な記憶ながらようやく思い出していた。

 そんな大事な思い出までも、淫蕩の呪いに現を抜かして失念してしまっていたとあって、雛は彼に申し訳なさそうに頭を下げる。彼はそれを恐縮そうに辞しながら
「僕は、雛様を非難するためにここまで来たのではないんです。何か深い事情があって、きっとそうなってしまったのでしょう。だから、過ぎた事はいくらでも水に流しましょう。僕はただ、雛様が、そしてこの村がどうしておかしくなってしまったのか。今後どうなってしまうのか。ただそれが知りたいだけなんです」
この際だから、と彼女に疑問に思っていることを全てぶつけてみる。

 健治からの率直な問いに、雛は思わず逡巡してしまう。彼女も滅多な事を口に出来ない立場。しかも四六時中監視されている身。どこの壁に耳があるか、どの障子に目があるかも分からないのであるから、下手な事は言えず、口籠ってしまったのだ。

「そう、だね……。健治くんになら、話してみてもいいかな、とも思ったけれど。そうするには、どうやらこの場所は狭すぎるし、時間も足りなさすぎるみたい。もし、きみが本気でこの話に首を突っ込もうと思っているなら、奉納をしてみて。慰月って聞いた事あると思うけど。ちょうど、明後日から始まると思う。そこで、五十両くらい出せば、私のこと、一晩貸し切れると思うから。逆に、そのくらいも出来ないなら、悪い事は言わないから、今日ここでの話と、きみが抱いている疑問はすぐに忘れたほうがいい」

 雛は言葉を選びながら、健治に忠告交じりの助言を与えた。五十両という額は結納金の相場とも言われる程の大金だ。だが、その額程度も簡単に用意できないのであれば、この村に蔓延る闇に立ち向かうにはあまりに非力すぎる。彼女の言う事も尤もだった。

 その額の大きさに、健治は思わず逡巡してしまう。彼の様子を見やった雛は、やはり所詮は年幾何もいかないまだ若い青年に期待するのは酷だったろうか、と息を吐いていた。

「さて、何も肝心なところに答えてあげられてなくて申し訳ないのだけれど。そろそろここで匿ってあげられるのも限界かな。このまままっすぐ、そこの山道を下って逃げなさい。一里ほど下ったら知った道に出る筈だから、それまでに着物と鬘を脱ぎ捨てるのを忘れずにね」

 雛は人目に付かず逃走できる道順を健治に案内してやる。それは或いは、大切な事を忘れかけてしまっていたという事に対する、彼女なりの贖罪であるのかも知れなかった。

 健治は雛とはいつまでも話をしていたかったが。彼女に迷惑を掛ける訳にはいかない、と感じたのだろう。小さく頷いて彼女の意に従う事への返事とした。

「僕、絶対諦めませんから!」

 去り際、健治は雛に振り向いて、意思表示する。彼女はそれに
「ふふ。期待しない程度に、楽しみにしているよ」
儚げな笑みを浮かべたのだった。


 今月の慰月の初日。雛は日中から修一の訪問を受けていた。

「厄神。あんた、裏で何かをやってないか?」

 開口一番、修一は雛に物凄い剣幕で問い詰めて来た。或いは先日健治と密会しているという事が露呈したのか、と焦った彼女は
「……いいえ。そもそも、貴方の監視役が四六時中、金魚の糞のように私に張り付いているじゃない。息苦しくって、おちおち満足に自慰もできないわよ。尤も、そんな事をしていたら、その監視している彼に襲われてしまったことが前にあったから、監視の目があるうちは、もうしないけどね」
修一が差し向けている監視役の神官の事を引き合いに出して疑惑を払拭しようとした。

「あいつ。あとで再教育が必要だな……」

 雛の告げ口によって、監視役が「掟」を破っていたという事がそこで発覚した。それで修一の怒りの矛先は哀れにも以前彼女を無理矢理手籠めにした前科がある、あの神官へと向く。彼女は一先ず事なきを得たか、と息を吐いていた。

「まぁその件は一旦置くとしてだ。今日はあんたにちょっと相談があってな」
「あら珍しい。私の意見なんか一切聞く気もないんじゃなかったの。都合が悪くなった時だけ、そうやって話を持ち掛けてくるのは、あまりにも虫が良すぎるんじゃないかしら?」

 修一が切り出そうとしたところで、雛は皮肉たっぷりで返した。途端彼は苦虫を噛み潰したかのような顔で舌を打った。

「御託はいい。余計な事も言わんでもいい。要件だけ掻い摘んで言うが。あんた、佐波屋は知っているな。そこの当主が、一人息子の元服に際して、どうかその息子単独で『厄払い』をしてもらえないかと依頼して来た。本来は二人以上でないと儀式はやらんという掟だ。だが、あちらも譲れぬと言って、五十両の大枚を叩いてきたんだ。丁度慰月だ。俺は折角だから特例として受けようと思っているが。厄神、あんたの意向を聞きたい」

 修一は雛に有無を言わせず、一人べらべらと事情を語ってみせた。彼は俗物だ。慰月で得られる奉納金の四分の一は社の金庫に入らず、彼の懐に入っている。雛はそれを知っていたから、
「まぁ、いいんじゃない? 収入が入るなら。貴方も私に女としての価値があるうちに、なるだけ沢山稼げた方が嬉しいんでしょう?」
彼の耳障りのよさそうな事を、やはり皮肉交じりに口にしてやった。

「余計な事は言わなくていいと言っただろう。まぁ、あんたの意向は分かった。佐波屋には今回の話は受けると伝えておくが。何かあるか?」

 言葉を交わす度に余計な一言を付け加えてくる雛の様に苛立ちながら、修一は事務手続きに必要な事柄や儀式に際しての配慮事項などを彼女に問う。

 雛としては、健治が本当に行動を起こしてきた事に驚いていた。いくら商家の息子であるとはいえ、親を動かすなどというのは流石に無理なのではないか、と高を括っていたからだ。

 どうやら自身は健治の事を見くびっていたようだ。雛はそれを素直に認めていた。そして彼のその行動力に免じて、今回は膳立てに協力しよう、という気を彼女は起こしていた。だから、
「そうね。儀式を受ける者以外は、夜明けまで何人たりとも離宮には立ち入らないこと。それを破ったならば、命の保証はできない。それを村人たちには徹底させてちょうだい。村長、貴方も勿論例外ではないわ」
雛は殊更勿体ぶったかのように、条件を付ける。それが守られないのであれば、今回の話は無かった事にする、と付け加えつつだ。

 大金を目の前にぶら下げられたことで、短絡的な思考に陥ってしまっているらしい修一は、
「……仕方ないな。佐波屋にも妙な事は控えるように申し伝えておくが。あんたも、くれぐれも今回の事は絶対に口外しないことだ。これはあくまで例外的な措置だからな」
雛が出した条件を受諾した。それに彼女は満足そうに頷いていた。

 何より「殺し」の大義名分が得られたのだ。つまりそれは、雛はいざとなればこっそり覗いてくるような不埒な輩は始末してしまうことが出来るということ。それを修一に認めさせただけでも、かなりやりやすくなった、と彼女は考えていた。


 果たして、雛を一晩占有することができる権利を得る事が出来た健治は、その日の夜、早速佐波屋の現当主で、彼の父である健佑けんすけと共に社へと訪れていた。

「それでは、佐波屋さん。息子さんを一晩お預かりします」
「はい。雛様、何卒健治を宜しくお願い致します」

 雛が儀式の開始を宣すると、彼女と旧知の仲であった健佑は恭しく首を垂れた。彼女はそれに一つ頷くと、
「それじゃ、健治くん。こっちへ。では、村長」
「わかっている。皆にもよく申し渡しておくが、今より夜明けまで、離宮に近付く者の安全は保障できない。くれぐれも、儀式を覗こうなどという不埒なことは考えないことだ」
雛は健治の手を引いて社の奥へと姿を消した。残された修一は、慰月ということで期待して集まって来ていた若者達に、雛と合意していた条件である、立入禁止の触れを伝えた。

 それを聞いた彼等は、それぞれ期待が外れたと溜息を吐き出しながら散り散りとなっていった。


 健治は雛に連れられて、離宮の一角にある小さな和室へと足を向けていた。

「ようこそ。今日の私は、きみだけのもの。聞きたい事は何でも答えてあげるし、私の身体だって好きにしていいからね。……まさか、本当に五十両を用立ててくるとは思っていなかったけど、ね。正直、きみをみくびっていた」

 口上を述べたあと、雛は率直な感想を口にしていた。健治はそれに照れ臭そうに笑みを浮かべる。

 健治の父である健佑は普段から寡黙で、他の村人と積極的に誼を結ぼうとする人間ではなかった。だから彼は、村人達からは「変人」扱いされていた。

 一方で、行商として村の外に出て、他所と交流する機会が多かった健佑は、他の地域の仕来りなどと比較して、この村の掟は明らかにおかしいと、真っ先に気付いていたようだ。

 だから健佑は、例え自らに順番が回って来たとしても、社が主催する儀式に参加して雛と身体を交えようとした事は皆無だった。だからこそ出来心からそれに参加してしまった息子からの相談にも親身になれたという側面があったようだった。

 それを健治の口から聞かされた雛は、村人の中にもそういった一握りの良心が存在していたということを、そこで初めて知ったのだった。

「取り敢えず、私が知っていること、私がこれから為さねばならないことを、きみには全部教えてあげる。ここまで辿り着いたんだもの。きみにはそれを知る権利がある」

 雛はそう断ると、自身のそもそもの役割、そしてどうして厄神である自身が娼婦のような立場となっているのか、というあたりを、順を追って彼に説明していった。

 今まで知り得なかった、この村に蔓延る深い闇と、それに巻き込まれてしまう事となった雛の立場。それを聞いた健治は、思わず涙ぐんでいた。そんな心優しい彼の様子に、彼女は再び胸を大きく突かれてしまっていた。

「僕はやはり、雛様のことを助けてあげたいです。この感情は、きっと、『好き』というやつなのかもしれません」

 健治は、自分の感情を素直に雛に伝える。それに、
「きみの気持ちは、痛いほどわかった。きみは他の村人とは違う。優しい心の持ち主だし、こんな私でも、愛そうとしてくれる。それははっきりと伝わって来たよ。でも、私はこの村の厄神なの。この役割を喪えば、私は存在を維持できない」
彼女は寂しそうに首を振った。そして、
「きみは一度、私の膣内で、射精してしまっているね。だから、もう『手遅れ』なんだ」
自身が意図的に振り撒いている淫蕩の呪いと、その意図についても丁寧に説明してゆく。

「僕も、雛様の話を聞いて、こんな村はさっさと滅びてしまえばいい、と思うようになりました。でも、僕はそれでもいいと思ってしまった。僕は人間だけど、貴女が好きになってしまった。だから、今後も雛様としか身体を交えることができないのであれば、いっそのこと、僕と……」

 逃げてしまえばいい。健治の口から出かかったその言葉は、雛によって制されていた。

「駄目、だよ。言ったでしょ。私は信仰を失なったら、顕界できなくなる。それは、きみ一人程度のものでは不足なの。それに、私はもう……子を為すことが出来ない程、身体を痛めつけられ、汚されてしまった。だから、どちらにしろ、もう『手遅れ』なんだよ……」

 雛も、ここまで自らの身の上話を親身に聞いて貰えたのは初めてだったのだろう。今までにない程に感情を丸出しにして、目に涙を浮かべながら、最早手立てはないことを強調した。

 あと二年、いや一年半も早かったならば、まだいくらでもやりようはあった。悪く言えば、健治の台頭はあまりにも遅すぎた。それを悟って悲観する雛を、彼は思わず抱きしめてしまっていた。

「ん、いい、よ。元々今日はそういう事をするために、来たんだもんね。知ってることは全て教えてあげたけど、どうしようもないんだ。きみがせっかく、頑張って努力して、用意してくれた機会なのにね……。無下にしてしまって、ほんとうにごめん。そのかわり、私のこと、好きに犯していいから……。せめて、いっぱい、気持ちよくなっていって……」

 雛の身体に触れたことで、呪いの効果が発現し、発情し始めていた健治の頭を撫でてやりながら、彼女は自らの衣服を床に落として、生まれたままの姿となる。

 呪いの発現を自覚してからこのかた、自ら村人に呪いを振り撒いて断種の推進を根差していた雛は、いつでも簡易に身体を交えられるようにと、普段から薄手の装束一枚だけを着て過ごしていた。今宵も彼女はそれの帯を解くだけで脱衣が完了してしまっていた。

「さて、健治くん。どう、したい……? きみはいつも、途中参加だったから、最初とっかかりの流れはよく、分かってないよね。そうだね、皆はいつも……呪いで大きく滾ったお○んぽを、私の口に無理やり突っ込んだり、いきなり押し倒して挿入れたりとか、そういうあたりから始めるんだけど……」

 雛は無理矢理身体を使われてしまうことに諦観から慣れてしまっていた。だから、彼もそういった粗々しい行為に及ぶものと勘繰ってしまっていて、そういう問いを投げかけたのだった。だが、彼が取った行動は、
「そんな酷いことは、僕にはできません……。僕はただ、雛様と接吻を交わしたり、抱き合っているだけでも、十分幸せですから」
呪いの効果が表れている筈なのにも拘らず、彼女に対する愛情がはっきりと感じられるものだった。健治に優しく唇を奪われた雛は、思わず頬を紅く染めてしまっていた。

 いつもの男達に無遠慮に犯されるものとは全く違う、優しい接吻と愛撫。健治からのそれに、雛はすっかり毒気を抜かれてしまっていた。だから彼女は、
「ふぁ、ぁん……っ❤」
彼が自身の乳房や尻を優しく撫でる度に、思わず甘ったるい嬌声を発してしまっていた。

「痛く、ないですか……?」
「ん……だいじょうぶ、だよ……❤ やさしく、してくれて……すごく、うれしい……❤」

 雛は、健治からのそんな心遣いにも多幸感を得ていた。だから、その「愛される」という初めての感覚を、彼女は戸惑いながらも受け入れてゆく。

 健治からの愛を受け止めつつあることで、雛の身体は淫蕩の呪いから一時的に開放されつつあった。
「あ、あれ……。ちゃんと、わたし、みえてる……。けんじくんの、やく、みえてきてる……!」
それは、彼女自身には予想外の違和感として伝わっていた。彼女には久方ぶりに厄神としての力が蘇って来ていた。

「えっと、雛、さま……?」
「もしかしたら、きみの呪い、解いてあげられる、かもしれない……。確かに、きみのなかには、わたしから受けた、厄がみえる。それを、わたしが、もう一度、うけとれば……」

 正気に戻りつつあった雛は、彼からの問いかけには答えず、考え込んでいた。彼女は今まさに厄神として蘇りつつある中で、健治だけは、少なくともこの村から出して生き永らえせるべきなのではないか、と考え始めていた。

 淫蕩の呪いが発現してしまうと厄神と村はどうなっていくのか。それを後世に語り継ぐ役目を帯びる者はどうしても必要だ。健治はそれにうってつけの人材だった。

 このような不幸は自身の代で止めなければならない。雛は厄神としての本質に立ち返った上で、そう自覚し始めていた。だから
「健治くん。よく、聞いて。わたしは今、きみがやさしく、愛してくれたおかげで……厄神としての正気を取り戻せている、みたい。だから、これがきっと、最後の機会。わたしの、厄神としての、最後の力をつかって、これからきみの中に、わたしが蔓延らせてしまった厄を、もう一度受け取る。それで、きみの呪いは、解ける。だから……きみはこの儀式が終わったら、速やかにこの村を出ていきなさい。あなただけは、栄えていきなさい。そして、淫蕩の呪いとはどういうものか、というのを、後世に伝える役目を帯びてほしい。この村のことは、わたしが、なんとかする。だから、全て忘れて、捨てていきなさい」
雛は生まれたままの姿ながら、今一度真剣な眼差しで健治を見つめながら、諭した。

「で、ですが……」
「わかるよ。いきなり、忘れて出ていけ、って言われても困るよね……。でも、きみはこの村には惜しいくらいのいい子。すべてを忘れることができないというなら、わたしを、愛してくれことだけでも、覚えていてくれたらいい、から……。いま、きみの厄を受け取ってしまったら、もう、元にはもどれないと、思うから……。すっごく身勝手だけれども……わたしの、おねがい……どうか、聞き入れてくれない、かな……?」

 困惑する健治に雛は、今度は以前彼が幼い時分に接していたような、優しげな言葉を選んで、改めてその運命を受け容れるように依頼する。その中に彼女の確かに決意を見出した彼は、それに否と言う事は、最早できなかった。

「……好きな方の、神様の仰ることですものね。わかりました。僕なんかでよければ、いくらでもお役に立ちましょう。そのかわり、ですが……」
「うん……わたしと、愛しあった証拠が、ほしいよね……。いい、よ。今だけ、わたしは、きみだけのもの……。だから、今だけは……『雛』って呼んで……❤」

 雛の願いを受け容れる決意を固めた健治の唇を、彼女は優しく奪う。彼等はそのまま舌を絡めた接吻を交わし始める。

「わたしは、こんな、やくのはらいかたしか、しらないから……。やくじん、なのに……へん、だよね……。でも、そのおかげで、きみと、こうして、あいしあうことが、できるから……❤ それだけは、なんか、いいな、って……❤」

 雛は今まで誰にも見せた事がない、照れ笑いを浮かべていた。或いはそれを見せるのは、健治が最初で最後であろう、とも彼女はこの時考えていた。

「やくじんが、お○んこで、やくをはらうときはね……なかだし、じゃないと、だめなの。……だから、えんりょしないで、わたしの、なかで❤ いっぱい、きもちよく、なって❤ひなの、お○んこ❤ にんしんしちゃう、くらい❤ いっぱい、なかに、だしてぇ……❤」

 雛は部屋の中央に用意されていた布団に仰向けに寝転ぶと、自ら既に濡れそぼっている秘唇を右手の指で開いてみせながら、健治を誘う。彼はその誘惑に逆らえず、早速彼女に覆い被さってゆく。

「いれるところ、わかる……? いつもは、うえに、のっちゃうからね……。こうやって、かおがちかい、かたちで、いれられるの、はじめてだから❤ ちょっと、てれちゃう❤」

 今まで愛情を注がれながら抱かれるという経験をした事がなかった雛は、頬に紅葉を散らしていた。そんな彼女は慣れない様子の健治の肉棒を優しく撫で擦りながら、自身の秘唇の入口へとそれを誘導してやる。

「んぅ、っ……❤ ここ、だよ……❤ そのまま、こし、おしだす、ように……❤ んっ、はいって、きてる……❤ そのまま、おくまで、いれてぇ……❤」

 雛が指示を与える。健治はそれに従って、ゆっくりと滾った一物を彼女の膣内へと侵入させてゆく。

「う、うっ……ひな、さま……っ。すっごく、きもち、いい……ですっ……。はじめて、もらってもらったときよりも、お○んこ、すっごく、しまってて……っ」
「けんじ、くん❤ さま、は、いらないよ❤ ひな、って❤ よびすてで、いいからね❤わたしたちは、いま❤ あいしあってる、なか、なんだから❤ いいんだよ……❤」

 未だ癖から敬称を付けて呼んでしまう健治の初々しい様子に雛は微笑みながら、彼の頭を抱いて髪をわしわしと撫でてやる。

 健治はそれに頷くと、早速雛の名を呼びながら、腰を振るってゆく。彼に肉棒を突き込まれる度、彼女は厄神であった頃から苦痛で仕方なかった性交の、本来の形を追経験することとなり、今まで得た事のない脳髄が焼けてしまうような感覚を味わっていた。

「おく❤ ぐりぐり、されると、すっごく、いい、よぉ❤ ふわふわ、って、して……❤これが、きもちいい、って、ことなんだぁ……❤ のろいが、なくても❤ いたくない、し……いや、じゃない……❤ もっと、ほしい、って、おもっちゃう……❤」
「ぼくも、ひなと、いっしょに、きもちよくなれてるの、すっごく、うれしくて……っ」

 未知の感覚に身体を震わせながら、雛は蕩けた表情で健治を見つめていた。彼はそんな可愛い想い人の様子にたまらなくなってしまったのか、再び彼女の唇を奪い、舌をすこし強引に挿し入れながら、肉棒を激しく抽迭して絶頂へと駆けあがってゆく。

「んぁ❤ はぅぅ、っ❤ お○んぽ❤ しゅごい❤ さきっぽ、かたく、なってるのっ❤ せーし、でちゃい、そうなんだ、ね……❤ いっぱい、いっぱいだして❤ ひなの、お○んこ❤ けんじくんの、せーし、で❤ いっぱいに、してぇ❤ おなか、たぷたぷに、なっちゃうくらい、なかだし、してぇ❤」

 雛は健治の肉棒の様子から絶頂が近い事を感じ取っていて、彼の腰を自らの足で抱くと、膣奥での射精をねだる。それに堪らず、
「もう、でちゃう……っ! ひなの、お○んこの、なかで……で、ちゃう……っ……!」
健治は遂に彼女の中で果ててしまった。びくびくと震えながら精を迸らせてゆく肉棒の感覚を得た雛は、
「はぅぅぅぅ、ぅっ……❤ せーし、おくで、でてる、よぉ……❤ なかだし、されて❤こんなに、きもちよく、なっちゃったの❤ はじめて、だよぉ……❤」
快感から与えられる多幸感によって、すっかり蕩かされてしまっていた。

「ん……❤ やく、ちゃんと、お○んこで、うけとれてる、よ……❤ がんばったね❤」

 雛は未だ膣内で吐精を続けている健治の頭を再び撫でてやる。彼はそれに呼応して、彼女の膣奥に肉棒を押し込んだまま、びくびくと震えながら、尿道に残っていた精も注ぎ込んでゆく。

「ふふ……すっごく、きもちよさそうな、かお……❤ ありがとうね、わたしのわがまま、きいてくれて……。わたし、ずっと、わすれない。けんじくんが、いっぱい、あいしてくれて、ほんとうの、じぶんを、とりもどせたこと……」

 雛は名残惜しさから、涙を溢れさせていた。健治はそれで、胸を突かれていた。

「やっぱり、雛様も……」
「それは、だめ……。わたしには、まだ、やることがあるから……。この身にかえて、でも……この村は、滅ぼさなきゃいけない。後世に、こんな悪しき風習を、のこしちゃ、いけないの……」

 名残惜しいのは、健治も同様だった。だが、雛の決意は固かった。彼はそれを汲んでいたから、説得を諦めざるを得なかった。

「健治くん……これを、持っていって。私には、もう、必要のないもの、だから……」

 彼が雛から託されたのは、大きな巾着袋に入った小判の山だった。しめて二十五両。それは、健治の父が社への奉納金として納めたもののうち、雛の取り分だった。

「これは……!」
「私には、必要ないけれど……きみが、これから生きていくのには、必要なもの、だよ。それで、私の分まで、生きて。そして、幸せになって。さぁ、早く。もうすぐ、夜が明けてしまう。きみの、ご両親のことも、わたしに、任せて。悪いようには、絶対しないから」

 驚き戸惑う健治を、雛は急かす。夜明けと共に、離宮の封鎖は解除されてしまう。最早彼等に残されていた時間は少なかった。

 荷物をまとめた健治は、改めて雛に向き直ると
「僕は、必ず雛様に託された勤めを果たします。貴女のことを、末代まで祀ります。ですから、どうか雛様も、お元気で。この御恩は、絶対に忘れません」
彼女に向かって二礼四拍手一礼の所作を行う。雛はそれに優しく微笑んだまま、頷いたのだった。


 かつて村を守るための郷神として降臨したはずの雛を、悪習で散々苦しめた農村は、現在では既に森林に飲み込まれ、今では見る影もない。

 あの後、厄病神へと戻った鍵山雛の野望は、満願に至っていた。彼女によって断種を強制された村人たちは、次第に衰え、病を得て皆次々と冥界への門を潜っていった。

 雛が手を下してより三十年ほどで、遂に次世代を生み出せなくなったその農村は、人口減少が著しかったことから、周辺の村々との統廃合が行われる事になったのである。

 村が滅びた理由が、男性不妊が原因であったとは遂に最後まで解明されることもなく、かつて村の中心地にあった社の跡に残されたのは、雛たった一人となった。

 そんな彼女がそこに存在していた証も、人の手が入らなくなった事により、どんどん森林と同化していった。

 そうして雛は、人々から完全に忘れ去られてしまったことで、遂に此の世に顕界することができなくなった。

 ようやく消え入ることが出来る。雛は安堵の息を吐きながら、ボロ雑巾のような有様になった身体を、朽ちかけていた鳥居に凭れ掛かるようにして、意識を失ってゆく。

 その刹那、雛が最後に思い浮かべていたのは、自身を最も愛してくれた、健治の顔だった。彼女は、彼に「愛している」と伝える事ができなかったことだけが、心残りだった。


 二度と開くと思っていなかった、瞼が開いた。雛は、驚いて身体を起こした。

「おはよう。厄神・鍵山雛、でよかったかしら……?」

 雛を見下ろしていたのは、長い金髪を靡かせた、道士服のような文様が中央に入っているワンピーススカートを着込んだ女性だった。

「ようこそ、幻想郷へ。ここは全てを受け入れるの。まぁそれは、時と場合によっては、外から入ってきた者達にとっては、多少残酷かもしれないけどね」

 八雲紫と名乗ったその金髪の女性は、雛に自身が置かれた状況を掻い摘んで説明した。

 雛が今現在寝かされていたのは、永遠亭という医院。ここで彼女は女性としての機能を回復する治療を受けていたのだそうだ。

 どうしてここにいるのか、という雛の問いに対して、紫は
「貴女には未練があった。それが何かは、私にはわからないけれど。そして、貴女を覚えている人がこちら側(ヽヽヽヽ)にいた。だから、完全に消滅しないで残った。私から言えるのは、それくらいかしら」
要領を得ない答えを返した。雛はやはり釈然としていない様子だったが、彼女を苦しめた村は間違いなく滅びたという事を紫から聞かされた彼女は、取り敢えず安堵の表情を浮かべていた。

「さて、ここでは貴女にはどんな役目を与えましょうか。やはり、厄神なのだから、厄集め、かしら」

 紫が右頬に人差指を当てながら逡巡する。厄集めという言葉を聞いた雛は、びく、と震える。またあの地獄のような日々を送らねばならないのか、と彼女は考えてしまったようだった。

「ああ、ごめんね。目覚めたばかりの今の貴女には刺激が強かったわね。今のご時世、貴女があの農村でやっていたような方法はかなり旧時代的よ。今はもっと楽ちんにやる方法はいくらでもある。貴女がかつて方法でどうしてもやりたい、というのなら、勿論止めはしないけれど……」

 紫は雛の不安を取り除くように続けた。それを聞いた彼女は、再び安堵の息を吐いたのだった。


 果たして幻想郷の一員として受け入れられた雛に宛がわれた社は、かれこれ百年程も主が居なかったのにも拘らず、丁寧に手入れが行き届いていた。

 そこに至った雛に、
「あの……あなたが、厄神の、鍵山雛さん……でしょうか?」
声を掛けてきた少年が。彼女はその少年の面影に見覚えしかなかったから、
「えっ……健治、くん……?」
思わずその名を呼んでしまっていた。

「けんじ……ああ、きっとそれは、僕の御先祖さま、ですね。僕は健一っていいます。代々、山の麓で『佐波屋』っていう旅籠を営んでまして。ウチはこの社の管理も任されていたります」

 その少年、健一は、雛が口にした名が何代も前の先祖にいるという事を語った。それで雛は、かつて本気で愛した男が、無事生きながらえていた、という事を把握するに至ったのだった。

 佐波家はあの後、かの農村から無事逃げ遂せた健治が中興の祖となり、各地へと子孫を残していた。そのうちの分家の一つが、結界の中への移住を選んだことで、こうして幻想郷の中で存続していたようだった。

 そんな佐波家の家訓では、
「厄神・鍵山雛さまをお祀りしなさい」
という事が言い伝えられているのだそうだ。記録によれば、各地に散った分家のうち、特にそれを命じられていた家が、健一の先祖ということらしい。

「僕は雛さんのお世話を父から命じられまして。僭越ながらこちらに住み込むことになりました。今後ともどうぞよろしくお願いします」

 あまりもの急展開に驚きを隠せない雛に、健一は笑顔で頭を下げた。その所作といい顔立ちといい、彼は健治の生き写しと言っても過言ではない程、彼の特徴を色濃く受け継いでいた。

 雛はそんな健一の姿を見た時、かつて彼女を散々苦しめた淫蕩の呪いが再現してしまったかのような、そんな奇妙な感覚を得ていた。


 雛が幻想郷に移住して来て、三か月が経とうとしていた。

 健一は雛の身の回りの世話を甲斐甲斐しく手伝ってくれていた。彼は雛から先祖の話を聞くのを好んでいたから、二人はすぐに打ち解けて仲良くなっていた。

 雛は健一との仲を深めてゆくにつれて、彼と出会った時に感じていた、例の奇妙な感覚が再現する頻度が高くなってゆくのを不安に感じていた。

 彼女の不安は、移住四か月目で的中してしまうことになる。

 雛の身体の異変は、彼女の女性器の完全回復が終わり、彼女に何百年ぶりかの生理が来てから十日ほどが経ち、かつて「慰月」と呼ばれた事もあった、危険日の時期に突入した刹那に始まった。

「からだが、あつい……」

 雛は身体全体に熱を帯びているという謎の現象に悩まされていた。そして、彼女の下腹部には、あの忌々しい淫蕩の呪いで発現していた紋様が、はっきりと浮かぶようになってしまっていた。

 雛のそんな状況は、もう三日程も続いていた。このまま呪いが再発してしまうのか。彼女はそれを恐れて、震えていた。そんな折だった。

「雛さん! 具合が悪そうだったので、急ぎ永琳先生を連れて来ました!」

 健一が気を利かせて、彼女に女性器の回復術を施した医師を呼んで来たのだった。


 雛は早速、永琳の診察を受けていた。彼女は助手の優曇華院にもあれこれ指示をして、彼女の身体をくまなく検査していった。

「永琳、どうなの……? 私のこれは、治るの……?」

 検査の結果が出たとあって、雛は不安気に訊ねる。それに永琳は
「結論から言えば、直ちには問題ない、というところね。貴女の身体は、どうやら子作りがしたくて、溜まらなくなってしまっているみたいね」
「えっ……」
苦笑交じりで下世話な事を突拍子もなく言い出した。雛はそれで真っ赤になって固まってしまう。その横でやはり不安気な表情を浮かべていた健一も同様だった。

「貴女は淫蕩の呪いが発現したことがあるんだったわね。まぁこれはその一種の後遺症みたいなもの。ほっといても害はない……いや、あるか。あまり症状が重くなると、手あたり次第にその辺の男を襲うようになるかもしれないわね……。まぁ、呪いの時みたいに、相手の男に何か影響を与えるということはないけども……」

 永琳は頬を右手の人差指で掻いてどうしたものか、と逡巡していた。

「あ、あのっ」

 三者三様の気まずい空気を破って声を上げたのは、健一だった。

「雛さんのこれは、その……えっち、を、すれば、治るんですか……?」

 健一は、思わず永琳に対して直球で問いかけていた。すると彼女は不敵な笑みを浮かべ、
「ふふ、まぁ、そうね。ただ、ヤるだけではきっとダメ。膣内射精までする必要があると思うわ」
雛の方をちらちらと見やりながら、見解を述べた。それを傍で聞いていた雛はますます頬の紅葉を濃くしてゆく。

「なんだ。この坊やが一番どうすればいいか分かっているみたいね。それなら話は早いわ。あとは君にお任せするから。また何かあったら呼んでちょうだね。優曇華院、帰るわよ」

 健一の頭を優しく撫でた永琳は、立ち上がると部屋の外で待機していた助手に声を掛ける。

「健一くん、またね。お父さんにもよろしく」
「あ、はーい。お薬足りなくなってないか、今度聞いておきます!」

 帰路に就く永琳に続いて、彼とは旧知の中であったらしい優曇華院も彼に声を掛けて退出してゆく。果たして、大山鳴動した割には、特になんの治療も施されないまま、顔を真っ赤にしたままの雛と、健一だけがその場に残されたのであった。

「えっと……つまり、どういうこと……?」
「僕なら、その……とっくに、覚悟はできてますから……。いいですよ。神様の贄にされてしまっても……。貞操は守ってますから、ちゃんと供物としても役に立てますし……。だから、雛さんが、見境なく他の男の人を襲ってしまうくらいなら、僕が……」

 当初、健一の意図が分からず、頭に疑問符が浮いたままの様子の雛だったが。彼が少しずつ声音を落としながら口にしたそれでようやく彼女は得心がいったようで、少し嬉しそうな声を上げた。

「雛さんのお世話というのには、そういうことも、含んでいると……父から伺ってますし……。あと、ごめんなさい、ほんと悪気はなかったんですけど……。先月、同じような感じになった時に、雛さんが、僕の、その……下着の匂いを嗅ぎながら、一人でシてるところも、見てしまってて……」
「あっ……うぅぅぅ……っ」

 諸々が露呈してしまっていた。それをはっきりと悟ってしまった雛の頬は、極限まで紅く染まり尽くしていた。刹那だった。
「そう、なの……確かに、性欲は、もう限界だった。でも、君に求めていいのかどうか、それが怖くて、今まで言い出せなかったの……。ひとりで、してたのも、そういうわけで……。でも、私……今まで自分から、男の人を誘ったことが、なくて……。だから、どうしたらいいか、わからなく、なっちゃってさ……。なんか、ごめんね……健一くんにも、いっぱい、心配掛けちゃってたみたいで……」
観念したらしい雛が、堰を切ったかのように涙目のまま事情を語り出したのだった。


 二人は、雛の寝室へと場所を移していた。彼女は待ちきれない、といった表情で、自ら着ていた衣服を次々と脱ぎ払ってゆく。

「ほんとうに、いいの……? わたし、いま、こんなんだから……とちゅうで、とめられないとおもうし……きっと、いづき……ううん、あぶないひ、だと、おもうから……。ほんとうに、こづくり、えっちに、なっちゃう……よ……?」
「勿論、覚悟の上なので、大丈夫、です。僕は許婚とかそういう相手とかはいませんし。それに、雛さんが現れた当代の者は、雛さんに心身共に尽くさねばならない、って言い伝えられてます。そして、僕も、雛さんのことが、その、好きです。だから、何の問題も、ないですよ……」

 形の良い乳房まで露出し、ショーツのみの姿となったところで、雛は我に返ったらしい。不安で押しつぶされそうになりながら、彼に問う。それに健一は自分の気持ちも交えつつ、問題ない事を伝えた。

 すると刹那には、
「うれしい……❤ わたしも、すき……❤」
彼の唇は早速雛によって奪われていた。

 布団に仰向けとなった雛は、かつて愛した彼の先祖と交わった時と同じように、布団に仰向けとなると、
「けんいちくん、きて……❤」
自身が履いたままだった、レース生地が多用された大人びた印象を与えながらも、どこか少女趣味の雰囲気も漂わせる、雛の可憐な印象にぴったりなショーツのクロッチをずらして、とろとろと蜜を溢れさせている秘唇を露わにさせる。

 雛に倣って衣服を脱ぎ、生まれたままの姿へとなっていた健一は、彼女の誘いに応じて秘唇に硬くなった一物の先端を擦り付ける。

「いい、よ……❤ そのまま、こし、おしだす、ように、して……❤ んっ、はいって、きてる……❤ そのまま、おくまで、いれてぇ……❤」

 女性と交わるのは初めてであると先に語っていた健一を、雛は優しく導いていた。かつての愛する人と瓜二つの、彼の血を引く少年の初めてを奪えたとあって、雛はすっかり蕩けてしまっていた。二人は舌を絡めた接吻を交わし、愛情を表現し合う。

「んぅ……っ❤ もう、からだ、ほてっちゃって……❤ どうにかなりそう、なの……❤ いっぱい、ぬぷぬぷ、して……❤ わたしのこと、きもちよく、させてぇ❤」

 雛が唇を放しつつ、腰を揺すって激しい抽迭をねだる。健一はそれに頷くと、
「はじめて、だから……うまくできないかも、ですけど……」
ゆっくりと腰を振るってゆく。

「おく❤ ぐりぐり、されると、すっごく、いい、よぉ❤ きもちいぃ……❤ もっと、ほしい❤ けんいち、くん……❤ いっしょに、きもちよく、なろぉ❤」
「ぼくも、ひなさんと、いっしょに、きもちよくなれてるの、すっごく、うれしくて……っ」

 二人は時折、舌を絡めた接吻を交わしながら、互いを蕩かすかのように腰を動かしていた。

「ひな、さん……どう、ですか……っ。きもち、いいですか……?」

 自慰では決して得られない、初めての生膣から与えられる感覚で、暴発してしまいそうな射精感を何とか耐えながら、雛を頑張って満足させようと腰を振るっていた健一が、身体を震わせながら問う。それに彼女は
「すっごく、いいのぉ❤ お○んこ、しあわせすぎて、とろけちゃいそう、なのぉ❤」
気持ちよさそうに嬌声を交わらせながら声を絞り出す。

 雛の膣は健一の肉棒を舐るように咥え込んだまま、きゅうきゅうと締め付けて来ている。初めてである彼はそれに耐えきれそうになかったから、
「ひな、さん……もう、でちゃい、そう、ですっ……」
それを率直に伝える。するとだ。
「はぁ、はぁっ❤ いい、よ……❤ このまま、なか、で……❤ いっぱい、だしてぇ❤」
呼吸を乱しながら、雛は膣内射精を欲して健一の耳元で囁いた。それが引き金となって、
「うぅ、っ……ひな、さんっっ!」
「きて、きてぇ❤ けんいち、くん❤ いっぱい、なかだし、してぇ❤ ひなの、きけんび、お○んこに、いっぱい、たねづけ、してぇぇ❤ ひぁっ❤ んぅぅっ❤ はぅ、っ❤」
二人は同時に絶頂へと至った。子宮の入口に向かって迸る愛しい人の精液の感覚を味わう事となった雛は、多幸感で蕩け切った表情のまま、絶頂と膣内射精の余韻に浸っていた。

「どう、ですか……? まんぞく、できました……?」

 呼吸を整えながら、健一が問う。雛はそれに小さく首を横に振ると
「……もっと……❤ もっと、せーし、ほしい、の……❤ おなかのなか、あつくなってるの、わかる、から……❤ きっと、あかちゃんのもと❤ でちゃってるんだけど……❤もう、すきになったひとが、はなれていっちゃうのは、やだから……ちゃんと、あかちゃん、できちゃうまで、いっぱい、せーし、そそいで、ほしいの……❤」
続け様の射精を欲してしまうのだった。

作品キャプション

「うん……わたしと、愛しあった証拠が、ほしいよね……。いい、よ。今だけ、わたしは、きみだけのもの……。だから、今だけは……『雛』って呼んで……❤」

冬コミ用の作品、村の備品(性奴隷)として扱われている雛ちゃんが力のある村一の商家の息子に一目惚れされて愛情を注がれたことで村を滅ぼして幻想入りして、最終的にその少年の子孫と結ばれるという、ダークサイドかつハッピーエンドなお話です。
実に久々にNTR以外の作品を書いたね……。

相変わらず渋用にクソ長タイトルしてますが、実タイトルは
「壊された御守りと淫蕩の呪い」
となります。
原案は妻(https://twitter.com/shimoyayuki)。
冬コミでは本作の単行小説版の他、原案漫画版も頒布します!

<書誌版頒布情報>
冬コミ2日目(12/31) 西2 う-19a「東方天翔記CPUダービー処」・う-19b「雪解け水」の2サークル合体スペースにて、本作の単行本を頒布します。
メロンで通販などもございますので、興味のある方は是非ご利用ください。小説側は表紙カバー・挿絵・栞付きです!
本作単行本:https://www.melonbooks.co.jp/detail
/detail.php?product_id=2259863

原案漫画版:https://www.melonbooks.co.jp/detail
/detail.php?product_id=2259942


Skeb:https://skeb.jp/@yuna_priest
Pixivリクエスト:https://www.pixiv.net/users/1330649
/request

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